「亡くなったお父さんの財産を調べたら借金だらけだった!」
このようなケースは、決して珍しいことではありません。

カードローンで借りたお金は、利用者が死亡してしまった場合にはマイナスの財産として相続の対象になります。

そのままでは、プラスの財産を大幅に上回るマイナスの財産を相続することになりかねません。
そうならないためには、相続の選択肢についてあらかじめ知っておく必要があります。

今回は、カードローン等の利用者が死亡した場合の手続きについて解説します。

負債は配偶者や子が相続する

カードローンでお金を借りている人が「債務者」です。
もし、債務者が死亡した場合は、配偶者や子供などの遺族が債務を相続することになります。

相続というと現金や不動産などのプラスの財産を受け継ぐことを想像してしまいますが、借金などのマイナスの財産も相続の対象です。

仮に相続人がカードローンによる借り入れ金の存在を知っていて、金融機関に利用者の死亡の事実を伏せていたとしても、カード会社は相続の発生を知ることができます。

利用者と連絡が取れなくなった金融機関は役所で債務者の住民票を確認します。
そこで死亡が確認された場合は相続人に対して「債務を相続する」ように通知を行います。

法定相続人は民法の規定で定められている

民法で定められた「人が亡くなった時に財産を相続する人のこと」が法定相続人です。民法では、法定相続人について以下のとおりに定められています。

相続人の範囲 死亡した人の配偶者は常に相続人となり、配偶者以外の人は、次の順序で配偶者と一緒に相続人になります。

  1. 第1順位 死亡した人の子供 その子供が既に死亡しているときは、その子供の直系卑属(子供や孫など)が相続人となります。子供も孫もいるときは、死亡した人により近い世代である子供の方を優先します。
  2. 第2順位 死亡した人の直系尊属(父母や祖父母など) 父母も祖父母もいるときは、死亡した人により近い世代である父母の方を優先します。 第2順位の人は、第1順位の人がいないとき相続人になります。
  3. 第3順位 死亡した人の兄弟姉妹 その兄弟姉妹が既に死亡しているときは、その人の子供が相続人となります。 第3順位の人は、第1順位の人も第2順位の人もいないとき相続人になります。

引用元:国税庁|No.4132|相続人の範囲と法定相続分

法定相続人については、民法の887条、889条、890条、900条、907条にそれぞれ記載されています。

法定相続人の順位は法律で定められているため、相続人が勝手に順番に入れ替えることはできません。

順位の関係で相続人になった人が「債務を承継したくない」と思った場合、順番を入れ替えるのではなく「相続放棄」や「限定承認」の手続きを経るしかありません。

単純相続とは

単純相続とは、亡くなった人(被相続人)が持っていた財産を全て相続する方法のことです。

カードローンは「借入金」という名目の借金として、遺産の一部とみなされます。

プラスの財産で代表的なものは、以下のとおりです。

  • 現金
  • 有価証券:株式や債券など
  • 不動産:宅地・農地・建物など
  • 動産:自動車・貴金属・骨董品など
  • その他:ゴルフ会員権・電話加入権など

一方、マイナスの財産としてカウントされるものは以下のようなものが挙げられます。

  • 負債(借入金):借金・住宅ローンなど
  • 税金:未払いの所得税・住民税・固定資産税など
  • 未払いの家賃・医療費など

また、相続財産ではあっても遺産分割協議の対象にならない財産もあります。
墓地や墓石、仏具や神棚などの宗教的な財産が該当します。

これらの宗教に関係する財産については、祭祀主催者1人が受け継ぐ(分割はしない)のが一般的です。

相続があった場合の金融機関の対応

相続が発生したとしても、金融機関としては貸したお金を回収しなければ経営が成り立ちません。

各金融機関の利用規約には、万が一利用者が死亡して相続が発生した場合の対応について記載されています。

例えば大手消費者金融のアコムでは、会員都合で退会する場合は「全額返済」と記載されています。SMBCモビットも「相続の開始があった時は直ちに全額を支払う」という規定があります。

銀行も同様です。

みずほ銀行や三井住友銀行などの大手をはじめとした多くの銀行で、相続の開始があった際には債務の全額をただちに支払うように定めがあります。

注意点としては、一部のカードローンでは「相続が発生した時の記述」があいまいなことがある点です。

アコムは「自己都合の退会」という表現にとどまっており、相続という言葉は出てきません。

規約を読み込んでも相続についてはっきりしない場合は、すぐに金融機関に電話等で確認することをおすすめします。

返済方法については相談できることも

紹介した通り、相続があった場合は原則として一括返済を求めるのが消費者金融や銀行の基本的なスタンスになっています。
これは、契約した本人が死亡したことで返済や借り入れの取り決めが全て無効になるためです。

一括返済が利用規約に記載されていても、返済方法の見直しについては金融機関に相談が可能です。分割払いに変更できる可能性は十分にあります。

どうしても一括での支払いが難しい場合は、窓口に相談してみましょう。

ただし、一般的な傾向としては一括返済に応じるがケースが多いといわれています。

葬儀や遺産分割協議で返済が遅れて遅延損害金がすでに発生しているほか、金利が高いために早く完済したいと考える人がいるのでしょう。

一気に完済してしまうことで、それ以上借金に悩まされることもありません。

相続を放棄したり一部に限定することも可能

単純相続を行う場合、債務は遺族が相続します。
ただし、必ずしも借金を全て相続する必要はありません。

マイナスの相続の一部、又は全部を免除される方法として、以下の2つの制度を紹介します。

    • 相続放棄
  • 限定承認

相続放棄とは

相続放棄とは、全ての遺産相続を放棄する手続きのことです。

カードローンの残債が払えない場合、相続放棄をするのも選択肢に入ります。相続放棄をすることでカードローンの返済は免除されるためです。

相続する財産のプラスの財産よりマイナスの財産を比べ、明らかにマイナスの財産が多く残っている場合は相続放棄が有効な場合があります。

後述する限定承認と違い、相続人1人の判断で相続放棄ができるのが特徴です。

限定承認とは

限定承認は、プラスの財産を超えない範囲でマイナスの財産を継承する手続きです。

相続財産について資産と負債のバランスが分からない時や、財産の合計でプラスかマイナスかはっきりしない時、限定承認が有効になる場合があります。

結果的にプラスの財産よりマイナスの財産が少なかった場合でも、プラスの財産はそのまま受け取ることができます。

1人では限定承認はできない

限定承認のポイントは、法定相続人が複数いる場合、相続人全員が共同で行う必要があるということです。

1人でも反対する法定相続人がいた場合は、限定承認をすることはできません。

限定承認を行う場合は「相続人であることを知ってから3ヶ月以内」に手続きを行うことが必要です。

「相続人の死後3ヶ月」ではない点に注意してください。

なお、法定相続人が複数いる場合は「最後の1人が『自分が相続人であること』を知ってから3ヶ月」がタイムリミットになります。

相続放棄のポイント

相続放棄は、いつでも好きな時にできるものではありません。所定の条件を満たして初めて相続放棄の手続きができます。

相続放棄を選択する場合のポイント・注意点について解説します。

相続の開始を知ってから3ヶ月以内に家庭裁判所への申告が必要

相続放棄を行うためには、相続の開始後3ヶ月以内に家庭裁判所で相続放棄の手続きを行う必要があります。

期日内に届けを行わなかった場合は、自動的に「単純承認」したものとみなされる点に注意が必要です。

限定承認を選択する場合も同様で、期限を超えた場合は単純承認とみなされます。

財産を使ってしまったら相続放棄できない

被相続人の死後3ヶ月以内に家庭裁判所に申し立てを行えば、原則として相続放棄は認められます。

ただし、相続人が財産の一部でも処分してしまった(不動産を売却した等)場合、相続人は単純相続をしたものとみなされます。

この場合は、相続放棄を選ぶことは不可能です。

全ての財産を放棄しなければいけない

相続放棄は、あくまでも「全ての財産を放棄する」手続きのことです。

プラスの財産がたくさんあったとしても、相続放棄したら全て放棄する必要があります。

「プラスの財産は受け取るが、マイナスの財産は受け取りません」という都合のいい使い方はできません。

債務自体がなくなるわけではない

相続放棄をすれば、その相続人が債務を承継する必要は無くなります。
しかし、債務自体が無くなるわけではありません

相続順位1位の人が相続を放棄した場合、第2位である人に相続権が移ります。第2位の人が放棄したら、第3位の人に自動的に相続権が移るのです。

債務者の配偶者と子が相続放棄を行う場合、相続順位が高い他の遺族に金融機関からの通知が届くことになります。

放棄をする時に借金の存在を親族に伝えておかないと、大きな親族間トラブルに発展する可能性があるのです。

団体信用生命保険があれば死後の支払いが免除

団体信用生命保険は、ローンを借り入れている人が死亡してしまった場合等に、ローンの残債を全額、保険金から支払ってもらえるという制度のことです。

カードローンに限らず、団体信用生命保険付きのローン商品を契約することで万が一の際の支払が免除されます。

ほとんどの住宅ローンに付帯されている

団体信用生命保険が付帯しているローン商品として代表的なものは「住宅ローン」でしょう。

住宅ローンは団体信用生命保険に加入していることが大半のため、返済途中で大黒柱である夫が死亡したとしても、その後の返済は免除されます。妻や子供が莫大なローン残債を支払う必要はありません。

カードローンならスルガ銀行が団体信用生命保険付き

カードローンの債務者が返済中に死亡して法定相続人の誰かが債務を相続した場合、親族間トラブルに発展する可能性もあります。

団体信用生命保険付きのカードローンならば、万が一の際は残債を返済する心配は無用になります。

ただし、現在では団体信用生命保険付きのカードローンを取り扱う金融機関はほとんどありません。

現在でも利用できる代表的なカードローンは「スルガ銀行のカードローン」です。
ガン保証特約付きの信用団体生命保険を選ぶことができ、保険料はスルガ銀行が負担してくれます。

利用者の金銭的な負担が増すことはありません。

万が一債務者が死亡した場合、信用団体生命保険で全額返済が可能です。
ガン保証付きのため、死亡しなくてもガンと診断されるだけで保険から全額返済される点も魅力的でしょう。

ただし、消費者団体生命保険の利用について注意点があります。スルガ銀行の公式webサイトに記載の条件をご覧ください。

保険適用期間は、満76歳になった月の末日まで。保険の加入、保険金等の支払いにあたっては所定の条件等がございますので、詳しくは「契約概要」「注意喚起情報」をご確認ください。2015年11月30日以前にご加入なされたご契約には、がん保障特約は付保されていません。 また、限度額500万円以下までのお取扱いとなります。
引用元:スルガ銀行|商品概要

満76歳になった月の末日をもって、消費者団体信用保険には加入できなくなる点に注意が必要です。

そのほか、保険金の支払いには所定の条件があります。
カードローンに加入前に、必ず保険金の支払条件などについて、電話等で確認しておくことをおすすめします。

まとめ

今回は、カードローンの利用者が万が一死亡してしまった場合の借入金の行方について解説しました。

銀行や消費者金融からの借入金の返済は相続放棄で回避できますが、借入金そのものがなくなるわけではありません。放棄しなかった人が借入金の存在を知らなかった場合は、トラブルに発展する可能性もあります。

相続放棄する場合は、親族の借入金の存在を明らかにすることを忘れないでください。
また、相続放棄をした場合は撤回ができません。単純承認や限定承認と比べてどれが良いのか、きちんと考えてから選択しましょう。